研究概要 |
不完全競争から生じる市場の失敗は,経済政策立案者が直面する古くからの問題の1つである。その対応策を検討するためには,まず市場の失敗の程度やその原因,影響の度合いなどを知る必要がある。その重要性にもかかわらず,東アジアの製造業種における市場構造と企業行動との関連を体系的に分析した研究はなされていない。本プロジェクトの目的は,この点を踏まえ,中国,台湾,インドネシア,マレーシア,タイ,ベトナムを対象に,その関連を分析することにある。 本研究により,次の3つの点が明らかとなった。第1に,台湾においては研究開発集約度の低い産業では企業の研究開発活動により参入障壁,そして集中度が高まる傾向にある。ベトナムでは国有企業や多国籍企業の存在が,インドネシアでは多国籍企業の存在が参入障壁を,そして集中度を高める傾向にある。一方で,中国の場合は多国籍企業の存在が集中度を下げ,タイの場合はコングロマリットが既に高い参入障壁を築いてきたため,多国籍企業の存在が集中度に大きな変化をもたらすようなことはなかった。 第2に,中国においては集中度合いが企業の研究開発活動に強い影響をもたらしてはいないこと,またベトナムの約半数の産業において,集中度と企業の生産性や賃金報酬とは負の相関があることがわかった。一方で,タイでは,輸入制限措置が強くない産業において,集中度と企業の生産性に正の相関がある。マレーシアでは,研究開発活動の有無が輸出や生産性に影響を与えている。 第3に,ベトナムでは,多国籍企業の生産性は地場と比較し高く,賃金報酬も高い。多国籍企業から地場への強い生産性及び賃金スピルオーバー効果はみられなかった。最後に,タイにおいては,生産性スピルオーバー効果は,保護の度合いが低い産業で最も強く,輸入競争が地場企業の技術吸収能力を引き上げる役割を担っていることを協調する結果が得られた。
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