研究概要 |
日本を含む多くの国において, 多くの研究者の間で議論されている新規株式公開(IPOs)時の「公開価格の過少値付けの問題(アンダープライシング問題)」の原因を明らかにすることにより, 未公開株式の公開価格がより適正に決定されると考えられる。本研究は, この原因を公開価格の決定方法, 株主構成, TobinのQおよびイノベーションの点からこの問題を分析した。 そのためまず第1に, 1997年から2007年のJASDAQにおける新規上場企業の株価推移と財務データ(貸借対照表と損益計算書)のデータベースを構築した。 第2に, 未公開株式のIPOs時の公開価格の決定方法を考察した。そこでは株式の評価方法としてIPOs株式の評価に適する方法を選択し, これらの評価方法と実際の公開株式価格との関係を明らかにした。そのため, 公開株価と類似業種比準法による推定株価との回帰分析, 公開価格と割引超過利益モデルによる収益率との回帰分析をいった。しかしながら, その両方とも決定係数が小さく, 十分説明することはできなかった。 第3に, IPOs時におけるアンダープライシングと各変数(売上高, 設立から上場までの年数, 資本金, 経営者の年齢, 株主構成, TobinのQ, R&Dへの投資額, など)との回帰分析を行った。 その結果は, 以下の通りである。(1)Qとオーナーの持株比率との相関係数が正であり, 統計的に有意であった。(2)企業内部者によって所有されている持株比率(fraction of Share)とTobinのQとの間には, 曲線の関係にあるとはいえなかった。(3)初期収益率が, 平均値および中央値とも, Low-R&D企業よりもHigh-R&D企業の方が大きく, R&D集約度が比較的高い企業が, アンダープライシングが大きい, ということがいえた。
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