研究概要 |
社会心理学では,脅威と自己制御を主題とする互いに独立した理論が提唱されているが,個々の理論が扱う脅威は表面上は異質に見えても,実質は自尊心への脅威として共通に把握でき,したがって個々の理論における自己制御の戦略には互換性がある。そして自尊心の根幹にあって自己制御過程でやり取りされるのが感情(affect)であるとされる(Tesser,2000)。この自尊心あるいは感情がさまざまな脅威にたいしてみせる柔軟な反応は「資源としての機能」と表現される。これは文化によって異なることのない機能と見なして以下の実験結果を得た、 食事とドア・イン・ザ・フェイス・テクニックが心理学実験への協力要請に対する承諾に及ぼす効果を検討するためのフィールド実験を行った。食事直後(ポジティブな感情状態にある)か食事無(ニュートラルな感情状態にある)の被験者に「拒否させて譲歩する」手順の有無を掛け合わせた。つまり、半数の被験者は最初に出した大きな要請を拒否するように誘導された後小さな要請を受け、半数の被験者は最初から小さな要請だけを受けた。食事もしくはテクニックだけを経験した被験者は、感情維持もしくは回復の機能によって、どちらも経験していない被験者よりも承諾率が高かった。両方を経験した被験者の承諾率はどちらも経験していない被験者と変わらなかった。この後者の結果はポジティブな感情がネガティブな感情を解消するための一種の資源として機能することを示している。食事無・テクニック無条件と食事有・テクニック有条件において承諾した者は、自己の行動を正当化しようとした(不協和低減行動)。感情の操作および測定に関する諸問題についての考察を行った。 別の実験では、苦境にある他者を助ける場面で、自尊心の高い者は、相手の苦境がもたらす脅威に対処しつつ、多くの援助を行えることが示された。これは自尊心がもつ緩衝機能(資源としての機能のひとつ)である。
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