研究概要 |
情動を処理する能力として,情動知能に注目し,その個人差を測定するための尺度であるESCQ(Emotional Skills & Competence Questionnaire)の日本版,そして、中学生版及び高校生版を作成した。これらの尺度を用いて,情動知能の個人差と,孤独感や自尊感情を指標とする適応感との関連性,居場所(「安心できる人」)が孤独感に及ぼす効果を緩和する効果等を明らかにした。情動知能の高い者と低い者における時間次元(過去,未来)による記憶の違いについても明らかにされた。すなわち,記銘語から想起される過去の出来事が快,中立,不快である場合の記銘語の再生率を比較したところ,情動知能の高い者は,快,中立,不快間の差はないが,低い者は快及び不快が中立よりも再生率が高かった。これは,過去の出来事から喚起される情動処理の違いが記憶成績に反映されたものと解釈された。また,過去と未来の出来事の両方を想起させた場合には,情動知能の高い者は快及び不快が中立よりも再生率が高く,低い者は差がなかった。これらの結果は、情動知能が、検索手がかりとしての過去と未来の出来事における情動処理を規定することを示唆した。上記の結果は、情動的な符号化の重要性を示唆し、新しい型の情動的精緻化が提案された。この情動的精緻化は、ある条件では意味的精緻化よりも偶発再生において有効であった。
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