研究概要 |
棒を振ることで,目を閉じていても棒の長さを知覚できることが知られている(ダイナミックタッチ)。それでは,人は,何を指標に,どのようにして知覚を行っているのであろうか。これまで多くの研究がなされ,種々のモデルが提案されてきた。しかしながら,メカニズムについては,静止保持するだけで長さを知覚できるとの主張も現れるなど,満足すべき理解が得られていないのが現状である。 我々は,先行研究で欠けていた棒の挙動計測を行うことにより,知覚メカニズムの解明を進めた。本報告書は,これらの成果をまとめたものであり,研究1,2,3の三篇で構成されている。以下に概要を記す。 (1)研究1:棒を振るという行為が知覚にとって本質的であるか否かを明確にすることは,知覚のメカニズムを理解する上で必須である。そこで,静止保持による長さ知覚の可否を明確にする実験から着手した。その結果,静止保持といえども,棒は微かに振れていること,そして,長さ知覚には一定レベルの振れ(加速度)が必要であることを明らかにした。 (2)研究2:ダイナミックタッチによる知覚メカニズムの解明,モデル構築を進めた。従来モデルの検証から着手し,被験者が知覚に利用する主要な物理量が慣性モーメントであることを明確にした。それでは,人はどのようにして慣性モーメントを知覚し,長さを推定しているのであろうか。この問題に対して,棒の角加速度と慣性モーメントの積から被験者の手首に加わる筋トルクを求め,知覚との関連を調べた。その結果,人が一次的に知覚可能と思われるトルクを主要な説明変数とする筋トルクモデルを提案した。 (3)研究3:筋トルクモデルを剛体だけでなく,「しなり」のある弾性体の棒にまで拡張・検証するには,筋トルクの直接検出が必要である。筋トルクと筋電位の関連を調べ,筋電位による長さ知覚の可能性を示唆する結果を得た。
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