物体を認識する際に最初にアクセスされる記憶表象のレベルをエントリーポイントという。通常、物体は最初に基礎レベルにおいて認識される。それ故、基礎レベルがエントリーポイントとしての機能を有している。しかし、顔などの熟達した認識においては、下位レベルにおいても基礎レベルと同様のアクセス性を示すことが知られている。今回の研究目的は、顔認識過程のエントリーポイントが基礎レベルにあるのか、それとも下位レベルにあるのか、又は、複数のエントリーポイントを持つのかについて明らかにすることであった。 実験1と2においては、実験参加者に有名人の顔を含む様々な物体の写真かそれらの名前を提示し、それぞれについて上位、基礎、下位レベルで呼称することを課した。もし、顔の基礎レベルがエントリーポイントとして機能していないなら、通常の上位レベルのように意味記憶を介して基礎レベルにアクセスされると考えられ、写真と名前による基礎レベルの呼称に正の相関があることが予想された。実験の結果、そのような正の相関は得られず、顔の基礎レベルがエントリーポイントとして機能していないという証拠は得られなかった。 実験3では、カテゴリー検証課題によって顔とその他(イヌ、トリ)の基礎レベルと下位レベルでの認識に要する時間を比較した。もし、顔の基礎レベルがエントリーポイントとしての機能を失っているなら、基礎レベルでの顔の認識が他の物体のそれより遅いことが予想された。実験の結果、下位レベルと同様に基礎レベルにおいても顔への反応時間が他の物体より早いことが示された。 今回の研究の結果から顔認識過程のエントリーポイントは基礎と下位の両方のレベルにあることが示された。
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