研究概要 |
子どもの描画における創造的なるものとは何か、また創造的な描画の特徴とそれがどのようにして生まれて来るかの解明を行った。具体的には、ギブソン、ドゥルーズ、クリシュナムルティの著作から創造性の理解のための理論を得た。そして、調査では出来上がった結果としての絵だけではなく、子どもの描画プロセスそのものを、注意深く観察、記録、分析、考察するという方法をとった。成果として得たことを3つの観点で示す。 1.【描画】描画は環境を知覚するための一つの手だてである。線を現実の知覚に役立てることが出来るということである。対象の意味や価値(アフォーダンス)は、線のアフォーダンスを掴もうとすることを通して知覚され、その知覚が線を確定していく。創造的な描画では、次第に生命が吹き込まれ、生きて機能するものへと変化する。すなわち、絵と自分との現実的な関わり合いが構築される。描画とは,環境の中を動き回りながら,それと一体化されつつ描き出される一種の探検地図である。 2.【創造性】一般的な創造力なるものは無く、創造性は主体と環境との接触の多様な可能性の中にある。接触とは知覚と行動のことである。そして、創造は、結果ではなく過程の中にある。従来、子どもの絵の創造性は、想像力や構想力、思考力などと結びつけて理解されてきたが、絵の創造性の中心は知覚に存する。 3.【絵画教育】世界をありのままに知覚することのすばらしさは、生きることそのものであり、絵画の存在理由である。描画の教育が、線描によって世界を見ることだとして、その見方を教えることはできない。それ自体が直接知覚を阻害する。したがって、絵画教育は、子どもが自分で世界を見ることを励まし助けるということに尽きる。そうした体験を持っ機会が増えるように、子どもにとって意味のある環境世界、興味深いモチーフの提示、注意のきっかけとなる声がけなど、出来るだけの工夫と準備をすることが重要である。
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