研究概要 |
本研究は,領域の境界の観測できない部分の一部の形状が未知であるかあるいは時刻と共に未知の変形をしているとき,観測できる境界の部分(観測面)での温度データから未知部分あるいは変形部分の形状を推定する逆問題を対象としている.現実の局面への応用を考え,領域の正則性はできるだけ緩い条件で扱い,境界条件についても昆合型境界条件の場合を扱う:形状を推定したい境界の部分ではDirichlet境界条件を,他の部分ではNeumann境界条件あるいはRobin境界条件を課す. 温度データと未知形状との関係は非線形である.そこで本研究に入る以前から平成18年度にかけて,まず線形化した問題を考察した.この問題に対し,未知形状の一意同定性定理を得,その新しい再構成方式を提案し収束性と安定性を示した.得られた結果はInverse Problems in Applied Sciences-towards breakthrough-で口頭発表し,さらに改良を加えて学術誌Inverse Problemsで発表した.それに続き19年度は,線形化をしない本来の問題について,まず変形部分の形状の一意同定性定理を得ることを目標として研究を行い,以下に述べる結果を得た:形状を推定したい領域は多次元ユークリッド空間の有界Lipschitz領域とする.方程式は有界な係数をもつ一般型の斉次放物型方程式で,拡散係数はLipschitz連続かつ一様楕円型であるとする.観測面におけるRobin境界値は観測時間[0,T]の各時刻において境界のどこかで0で無いとする.そして,初期時刻t=0での領域の形状が既知であるか,あるいは初期値が0であるとする.このとき,[0,T]における観測面での温度データから,[0,T]における変形部分の形状が一意に決まる.これらの結果の概要は今春の日本数学会年会で発表したが,さらにその詳細を公表すべく投稿準備中である.
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