研究概要 |
本研究の目的は,非線形系の記号力学系による表現可能性を探ることであった. 2次元以上の微分同相写像に関しては,臨界点のような特別な点が存在しないこともあり,1次元写像の場合のようなitinerary表現を構成することは困難である.Henon mapという最も基本的な非線形写像に関しては,Horses hoe mapになる以前の非遊走集合上のdynamicsを,2-symbols full-shiftのsubshiftと見なそうという,pruning frontというアイデアがある.Henon mapに対しては,Davis-MacKay-Sannamiによって,pruning frontの一種であるmissing block expressionという表現によって,Henon mapの非遊走集合上のdynamicsが表現されるメカニズムが示され,それは最近,Araiによって,他の多くのパラメータ値の場合も含めて,数学的に厳密に証明された.しかしこれはcomplex full-horseshoeの場合のみであり,tangencyが起こっている場合や,sinkが存在する場合などについては,このような方法でsymbolicな表現が可能であるのかどうかは分かっていなかった.本研究においては,complex horseshoeの場合ではなく,sinkを持つ場合の,missing block expressionを調べ,sinkがある場合であっても,missing blockによる表現が可能であることを示すことができた. ただし,1つの3周期軌道だけが残るようなmissing block expressionも可能であり,このようなHenon mapでは起こり得ないような状況を作ることもできる.実際のreal Henon mapに対応するようなmissing block expressionには何らかの制限があるはずであり,本研究から得られた,この新たな方向性の研究をさらに発展させてゆくことにより,2次元非線形系力学系のsymbolic表現という重要な問題に対して,大きな進展が得られる可能性がある.
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