研究概要 |
メタンハイドレートの高圧相である"filled ice"相では,氷-VII相よりも20GPa低い40GPaの圧力で水素結合対称化が発現することが,第一原理計算によって予測されている。しかしながら,この"filled ice"相における水素結合対称化の実験的証拠は未だ得られていない。その原因として,水素結合対称化の証拠となる水素原子の振動が観測されていないこと,X線回折実験では水素原子を観測することが困難であること等が挙げられる。本研究課題では主にメタンハイドレート"filled ice"単結晶を作製し,超高圧ラマン散乱測定を利用して水素結合対称化発現を探査,またその発現プロセスを調べることを目的としている。 平成18年度では,高圧ダイヤモンド・アンビル・セルを用いて,流体メタン中にメタンハイドレート結晶を生成することに成功,また,作製したメタンハイドレート結晶に対して高圧ラマン散乱測定を行い,水または氷のラマンスペクトルの影響を受けていない純粋なメタンハイドレートsI相,sH相のO-H伸縮振動の信号を得ることに成功した。平成19年度では"filled ice"相においてラマンスペクトルの測定を試みた。10GPa以下の圧力下では,ラマンスペクトル強度が非常に弱く,重水希釈によるスペクトル先鋭化を行っても観測できなかったが,10-14GPaの圧力下で"filled ice"相のO-H伸縮振動スペクトルの観測に成功した。水素結合対称化を発見するには至らなかったが,観測したラマン周波数シフトから,水素結合対称化は約50GPaの圧力で発現する可能性があることが明らかになった。
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