研究課題
基盤研究(C)
本研究では、反強磁性三角スピン格子がナノメートル領域で孤立する分子磁性体を対象に、スピンカイラリティという新しい自由度と磁気的性質との関わりを実験的に明らかにするため、核磁気共鳴法を用いて磁気状態を調べた。具体的には、3つのV^4+(S=1/2)イオンが三角形に配置した典型的なスピンフラストレーション系として考えられているV15クラスター(K_6[V_15As_6O_<42>H_2O]・8H_2O)を用いて、V^4+スピンの状態を調べるため核磁気共鳴実験を行なった。その結果、100mK以下の極低温においてオンサイトの<51>^V核の信号を検出することに成功した。観測したスペクトルを解析した結果、基底状態がS=3/2のH>2.7Tの磁場領域では、三角形上のV^4+イオンはほぼ1μ_B程度の磁気モーメント持っていることが明らかとなった。さらに、H<2.7TのS=1/2基底状態では、1μ_B、〜0.6μ_B、〜-0.33μ_B程度の磁気モーメントを持つVサイトが存在することがわかった。この結果は、V15クラスターの基底状態S=1/2の極低温領域では、スピンフラストレーションが解消されスピンカイラリティの自由度が消失していることを明らかとなった。また、スピンカイラリティと磁気的性質との関わりをより広い視野から調べるため、反強磁性三角スピンが一次元方向に繋がった反強磁性三角スピンチューブ([(CuCltanchH)_3Cl]Cl_2)の磁気状態もNMRにより調べた。その結果、通常の一次元スピン鎖の場合と大きく異なり、1K以下の極低温領域で、Cu^2+(S=1/2)のスピンモーメントの揺らぎの周波数が極端に低くなり、スピンの凍結が起こっていることを見出した。以上の結果は、国際会議なので発表するとともに、原著論文として報告した。
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