研究概要 |
Bi_2Sr_2CaCu_20_<8+δ>(BSCCO)における最近のSTM実験において,大/小ギャップを持つ2種類の領域がパッチ構造をなす,ナノスケール不均一状態が見出された.不均一状態の主な特徴は,(i)大ギャップ領域において擬ギャップ的なスペクトルを示す,(ii)ギャップ内のスペクトルは大/小ギャップ領域ともに一様,(i)一次元的な方向性を持つ長距離電荷秩序の発現である.銅酸化物超伝導体に不可避的に混入される面外不純物は,この不均一性やギャップ構造の原因であると考えられている.不均一性それ自体も高温超伝導の物理に多大な興味をもたらすが,さらに不均一性の考察により,「均一モデル」では定性的な理論的理解すら得られていない当該分野の未解決問題を解明するための鍵が見出されることも期待される.したがって,不均一性を,とくに大ギャップの素性に注目して研究することが重要になる. 以上の背景に基づき,我々は空間的に変調するd波超伝導状態を2次元t-t'-t''-Jモデルを用いて,拡張Gutzwiller近似に基づくBogoliubov-de Gennes理論の範囲で調べた.ホール濃度12.5%における完全にセルフコンシステントな解として,4倍周期で超伝導対振幅Δがゼロになるドメイン構造を見出した.一方でホール濃度15%附近では,5倍周期になることが分かった.このとき,隣接するドメイン間の超伝導は位相反転型,すなわち位相差がπである.Δ=0のドメイン壁付近ではホール密度が局所的に増加する.これは超伝導凝縮エネルギーの損失によるものである.さらに位相反転型超伝導ドメイン構造における局所状態密度を見ると,超伝導コヒーレンスピークが強く抑制されていることが分かった.
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