研究概要 |
本研究計画の目的は,中央ネパールのカトマンドゥ・ナップの形成過程上昇過程を各種の放射年代データから解明することであった.しかし,主たる方法であったMCT帯中のザクロ石のジルコンU-Th年代測定において精度の良い結果を得ることができず,その点では所期の成果を得ることができなかったが,以下の成果を得ることができた。 1.カトマンドゥ・ナップの南限を明確にし,その構成岩石の特徴からナップがダブルナップでないことを確定した。 2.主中央衝上断層(Main Central Thrust,以下ではMCTという)帯の眼球状花崗片麻岩のRb-Sr全岩アイソクロン年代により,それらがルートゾーンの同種岩石と同様の前期原生代末期であることがわかった。しかし,一部には前期古生代を示唆するものもあり,新たな問題が生じてきた。 3.MCT帯の千枚岩中のざくろ石に含まれるモナザイトのU-Th年代値の多くは精度が極めて良くなかったが,いくつかの値は,ナップの南端部のMCT帯では中新世(22-13Ma),中間部のMCT帯では鮮新世(4-2Ma)の年代を示した。このことは,カトマンドゥ・ナップを切るout-of-sequence thrustの活動は13Maより新しく,数Maよりも古いことを示唆する可能性がある。 4.カトマンドゥ・ナップ構成岩石中のジルコンやアパタイトのフィッショントラック年代測定によって,ナップの上昇過程が約9Maの南部から2~1,5Maの北部まで時代とともに北に及んだことがわかった。その上昇機構としてナップ深部のランプ構造とそこから派生するスプレイスラストの役割を指摘した。 5.カトマンドゥ・ナップ北部のゴザインクンド山地を横断するジルコンのフィッショントラック年代分布は,年代値と試料高度の関係が山地の北斜面と南斜面で対照的であり,このことは,南斜面の岩石が約2.6Maにジルコンの閉鎖温度を通過し,その後北斜面がより急速に上昇したことを示すと思われる。
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