研究概要 |
前年度の研究で観察されたマイクロメートルオーダーのメルト包有物におけるLi同位組成の不均質性は,前処理として行われる加熱処理に起因するものなのか,始原的な不均質性なのかを明らかにすることが,本年度の第一の課題であった.このことを確かめるため.メルト包有物中に鉱物包有物が認められないために加熱処理を行って均質化を行う必要のないアイスランドの玄武岩類のカンラン石中のメルト包有物のLi同位体分析を行った.その結果,メルト包有物中に大きなバブルが存在する試料では,バブルに近づくにつれ,メルト包有物のδ7Li値は大きくなるという結果を得た.このことは,メルト包有物中のLi同位体が,拡散により6Liが相対的に速くバブル側に移動した結果を示していることを示唆している.したがって,ハワイ玄武岩類のカンラン石中に含まれるメルト包有物に観察されたLi同位体組成の不均質は,マグマ溜内での発泡,あるいは前処理の加熱処理によりLi同位体分別が起こり,メルト包有物中のLi同位体組成は始原的組成を保持していないといえる. さらに,ハワイ玄武岩類のカンラン石には変形による著しい転位構造が見られ,それはカンラン石が始原的なメルトから晶出したのではなく,マグマ溜の壁岩由来のゼノクリストである可能性が以前から指摘されてきた.そこで,カンラン石を生じたメルトの組成の違いがカンラン石のLi同位〓組成にその違いが反映されると考え,カンラン石の形状とLi同位体組成変動を調べた.その結果,転位密度が高いと考えられるカンラン石には+120‰という著しく高いδ7Li値を示す部位があることがわかった.この異常に高いδ7Li値は,起源物質のLi同位体組成の違いを反映しているのではなく,変形時のカイネティックな同位体分別の結果を反映していると考えられる.より確実な結論を得るには,今後更なるデータの蓄積が必要である.
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