研究概要 |
トムソン散乱による低温プラズマの電子密度・電子温度計測において,レーザーは集光してプラズマに照射される。焦点近傍のレーザーエネルギー密度は極めて高く,多光子電離による電子の発生がプラズマ中に最初から存在する自由電子の密度に比べて無視できなくなる可能性がある。この点を定量的に把握しておくことが信頼性の高いトムソン散乱計測には不可欠である。このため真空チャンバ内のバイアスされた並行平板プローブの中央に集光したNd:YAGレーザービーム(2倍波532nm)を打ち込み,多光子電離で発生する電子を定量的に計測する測定系を構築した。チャンバには所定の圧力でガス又は空間アフターグロープラズマが導入される。なお,別の実験により焦点近傍のレーザービームプロファイルを詳細に測定し,多光子電離の起こる体積の概略が見積られている。予備的な結果では,焦点距離400mm程度のレンズで200mJのNd:YAGレーザービームを集光する場合,準安定Ar原子は高い確率で多光子電離を起こすが,基底状態Ar原子の多光子電離はほとんど起こらないことが明らかになった。N_2分子および純空気(合成空気)についても基底状態からの多光子電離を調べ,いずれも明確な多光子電離信号が観測された。空気からの信号はN_2からの信号より約5倍大きく,これは実験条件下でO_2の多光子電離がN_2より20倍以上起こりやすいことを示唆している。このためO_2ではTorrオーダーの中圧力プラズマで,基底状態からの多光子電離がトムソン散乱計測に影響を与える可能性が示唆される。現在用いているプローブは電荷収集体積にあいまい性を残しているので,この点を改良したプローブを作成し,引き続き,より広い範囲のガスに対して定量性の高い多光子電離効率のデータを取得し,どのような実験条件で信頼性の高いトムソン散乱計測が可能かを明らかにしてゆく。
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