研究概要 |
本研究では,温度上昇によって68℃付近で3〜4桁の抵抗値変化即ち相転移を示す化学量論比のVO_2薄膜堆積した上で,VO_2薄膜を利用するスイッチングデバイス創製を目的として実施した. 平成18年度は,プラズマプロセスの一方法であるスパッタ成膜法の中で,申請者らが応用開発を行なってきた誘導結合プラズマ(ICP)支援型スパッタ法を適用して,相転移を示す化学量論比のVO_2薄膜堆積を行った.その結果,成膜時の酸素流量制御とRF電力の最適化によって3〜4桁の高い抵抗変化比を有するVO_2薄膜を安定して作製することに成功した. 平成19年度は,相転移を示すVO_2薄膜に対して微細加工技術導入によプレーナ型電界誘起スイッチングデバイスを試作し,スイッチング特性の評価を行なった.プレーナ型デバイスとして2種類の構造を作製した.それらは,電極幅,ギャップ長が共に10μmのデバイスAと,電極幅1500μm,ギャップ長が5μmのデバイスBである.デバイスAではリフトオフ法を用いて10μm幅のVO_2ストリップラインを形成し,VO_2膜の高い初期抵抗値を実現することで,抵抗スイッチング時の動作電流を低減し,スイッチング前後の抵抗比を高くとることができた. これらのデバイスにパルス電圧を印加して,電界誘起スイッチングを調べた結果,ストリップライン構造を導入した10μm/10μmデバイスでは初期抵抗値を8800Ωと高い値とすることができ,6Vのパルス印加によって明瞭な抵抗スイッチングを観測した.スイッチング後の抵抗値は800〜3000Ωとなり,その値はパルスの波高値やパルス周波数に依存した.また,100KHz,デューティ比10%のパルス入力に対してはスイッチング応答時間は200nsと高速であった.一方,1500μm/5μmのサイズを有するデバイスBは,素子スケールから予想される電流ジャンプ時のしきい値電圧3Vを実現した.この結果は,VO_2の電流ジャンプが電極サイズに基づくスケーリングによって制御できることを示すものであり,応用へ向けて重要な事項である. 本研究を通して,VO_2相転移薄膜を利用する電界印加抵抗変化の電極サイズに対するスケーリングの成立と高速なスイッチング速度を示したことで,VO_2をベースとする高速スイッチング素子の研究開発の基礎を築くことができた.
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