研究概要 |
研究主要テーマ」として,「(A)時間に依存しないHamilton演算子から得られる分光スペクトル,(B)時間依存のHamilton演算子から得られる質量スペクトル」を考えた。 (A)では,主に6種のスペクトル解析((1)有機物のXPS及びXES,(2)Mn_<12>分子磁石の電子状態,(3)交互炭化水素分子の共鳴XES,(4)第二周期元素(C,N,O,F)を含む物質のKVV'のAES),(5)イオン照射により表面改質したキトサンのXPS,(6)炭素同素体のXPS)の追究である。(1)の成果はO,CO,N及びSを含むポリマーについて,共同研究者のKurmaevらによって内外で最初のCKαX線実測スペクトル,更にそのポリマーのCls内殻電子スペクトルを結合エネルギーを精度高く解析した。(2)もKurmaevらとの共同で選択的に注目原子を共鳴XES測定し,理論的解析からMn_<12>O_<12>(CH_3COO)_<16>(H_2O)_4分子のMn_<12>の電子状態を究明した。(3)はC_nH_n分子のab initio MO計算においてLUMOへの1電子励起中間状態を考慮し,その分子の共鳴XESを解析した。(4)の研究「第二周期元素(C,N,O,F)を含む物質のオージェ電子スペクトル(AES)の解析」はAESのエネルギー計算に関して、新しい算出法を提唱した。実例としてグラファイトのC,GaNのN,SiO_2のO及びLiFのFに関するオージェ電子スペクトルの解析結果を示した。(5)は理大グループとの共同でKr^+イオン照射による表面改質キトサンのXPSスペクトルを量子分子動力学による熱分解した断片物質のXPSスペクトルと対比し,イオン照射後の表面状態を明らかにした。(6)はプラズマ蒸着法などで作製されたdiamond-like-carbon(DLC)関してダイヤモンド/グラファイトの相対比を価電子帯スペクトル解析から判別する方法を提唱した。更に同素体の仕事関数はカーボンナノチューブ<グラファイト<ダイヤモンド<C60の順に大きいことを示した。これらは論文として投稿し、受理された。 また(B)では量子分子動力学プログラムの改良(ab initio MOプログラムとMDプログラムをドッキング更に励起状態を含めたMOプログラムとMDプログラムをドッキング)し、(1)ポリマー,フラーレン及び有機分子などの熱分解をシミュレーションした。(2)リグニンモノマー及びダイマーと(3)ポリマー(PS及びPET)のSIMSによる質量スペクトルをそれぞれモデル分子の熱分解をシミュレーションし、TOF-SIMSによる有機物の質量スペクトルと対比させた。これらも論文として投稿し受理された。 その他,量子波束ダイナミクスによる系のダイナミクスを波束の動きで可視化した研究,固体NMRによる相転移物質などの分子ダイナミクスを追究した。
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