研究概要 |
生体試料や食品中のタンパク質の分析は多くの需要があり,従来の色素染色法に代わる迅速・簡便で,より信頼性の高い電気化学センサーが望まれている。本研究では,油水界面を用いてタンパク質を直接,電流として検出するセンサーの開発を試みた。まず,その基礎検討として,アニオン性界面活性剤存在下における分極性油水界面での各種タンパク質のイオン移動挙動をボルタンメトリー的手法により詳細に検討した。その結果,pH 7付近の中性条件下においては,界面活性剤による界面での逆ミセル形成が起こり,この逆ミセルに取り込まれる形でタンパク質が油相へ電気抽出されることを確認した。しかし,このpH条件では一部の小形タンパク質(プロタミン)を除いて,油水界面の分極領域内にタンパク質独自のボルタンメトリー波は観察されなかった。一方,pH 3.5付近の酸性条件下においては,調べた全てのタンパク質が明瞭なボルタンメトリー波を与えた。ただし,定電位電解等を併用して調べた結果,このpH条件下においてはタンパク質を含む安定な逆ミセルは生成せず,タンパク質は油相側の界面で界面活性剤との錯体を形成して吸着することが分かった。しかし,界面活性剤濃度を十分高く設定すると,得られたボルタンメトリー波のピーク電流値はタンパク質濃度に比例し,さらに,波が現れる電位はタンパク質によって異なることが分かった。このように,タンパク質の定量分析および定性分析が可能であることが確認でき,新しい直接検出型のタンパク質センサーの基礎原理を確立することができた。さらに,実用的なタンパク質センサーのプロトタイプとして,全電解フローセルによるオンライン分離/検出装置を作製し,タンパク質の分離検出が原理的に可能であることも確認できた。
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