研究概要 |
光学活性ケトイミナトコバルト錯体による触媒的不斉還元反応は,安価で取り扱いやすい水素化ホウ素ナトリウムを還元剤として,広い適用範囲,高い触媒効率が実現されることから,光学活性第2級アルコールの合成法として期待されている。高い不斉収率の実現にはクロロホルムが必須であるが,実用的観点から環境負荷を考慮し,ハロゲンフリーの検討を行った。分析的手法と計算化学的手法による反応機構の検討から,クロロホルム由来のジクロロメチル基がコバルトに結合した中間体が反応に関与し,クロロホルムは単なる溶媒ではなく,コバルト錯体の活性化剤であることが示された。そこで,触媒量のクロロホルムを添加することによりハロゲンフリー溶媒中の不斉還元の実現を目指した。最適化の結果,THF溶媒中5mol%のクロロホルムの添加によってハロゲン系溶媒での結果に匹敵する収率・不斉収率の実現に成功し,ジカルボニル化合物を含むケトン類,イミン類への幅広い適用が可能となった。さらに完全ハロゲンフリー反応系の確立を目指した。コバルトのアキシャル位に結合したジクロロメチル基に相当する中間活性体を想定し,コバルト錯体とジアゾ酢酸エステルから調製されるコバルトカルベン錯体を触媒とする不斉ボロヒドリド還元反応への展開を試みたところ,高収率・高エナンチオ選択的に対応するアルコールが得られ,完全ハロゲンフリー溶媒中の反応開発に成功した。これらの結果の他,オルト位がフッ素原子で置換されたベンゾフェノン類の触媒的不斉還元反応の実現に成功した。さらに,本反応を動的キラルなビアリールラクトン類の還元に展開し,高収率・高立体選択的に軸不斉を有するアルコール体が高い不斉収率で得られることを見出した。
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