研究概要 |
本研究では,アニオンと相互作用可能なフェニルボロン酸の性質を利用した自己組織システムの提案をおこなった。 1)アリザリン系色素をレポーターに用いる自己組織型蛍光アニオンセンサー 化学的・生物学的に重要なアニオン化学種に適用できる化学センサーの開発を目的に,そのシステムに必要な被検査物質認識部位として種々のフェニルボロン酸を合成し,レポーター色素としてカテコールの部分構造をもつアリザリン系色素を組み合わせた自己組織センサーシステムを構築した。o-アミノメチルフェニルフェニルボロン酸は,20wt%含水メタノール中アリザリンと会合して蛍光を発するが,pH5.5の条件下,フッ化物イオンの添加に対して,選択的な蛍光消光を観測した。一方,ジピコリルアミン亜鉛錯体共役型フェニルボロン酸(1・Zn)を新規に合成し,MeOH-10mM HEPES(1:1v/v,pH7.4)中,アリザリン系色素との相互作用を検討したところ,今度はあまり発光しない。しかしながら,縮合リン酸イオン類の添加に対して,選択的な蛍光応答を発現した。その序列は,ピロリン酸イオン>アデノシン三リン酸イオン>アデノシンニリン酸イオン>アデノシンモノリン酸イオンとなった。また,以上の知見をもとに検討した関連システムは,フィチン酸イオンに対してレシオ検出を可能にした。 2)イオンペア制御型動的分子カプセル われわれは,フェニルボロン酸がcis-ジオール体と可逆的な共有結合を形成することに着目し,これを分子カプセル形成の要素間相互作用に用いることを検討した。具体的には,カテコール部位を持つ分子部品にcyclotricatechylene(1)を,一方,ボロン酸部位を持つ分子部品にhomooxacalix[3]arene(2)をそれぞれ合成して,カプセル化を試みた。CD_3OD-CD_3CN(4:1 v/v),室温中,1と2を共存させても相互作用はおこらない。しかしながら,Et_4NAcO(3当量)を加えたところ,自発的なカプセル化がおこり,そのカプセル内部にひとつのNEt_4^+が包接されていることが,1H,1HROESY,およびDOSYスペクトルを含むNMR実験から明らかとなった。このカプセル化挙動には,添加する塩のアニオン依存性およびカチオンサイズ依存性があることがわかり,イオンペアによって制御できる動的分子カプセルの構築に成功した。
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