研究概要 |
1ボケ順応による空間解像力制御 かすみフィルターを用いて視野全体にボケ画像を呈示し,視覚系解像力への影響を検討した.フィルター越しに観察している時は,像がぼけ視力は低下するが,しばらくするとボケ画像への順応効果により視力は多少回復し,ある値に落ち着く.さらにボケ画像を観察し続けた後,フィルターを外す.当然,視野は鮮明になるため視力は元の値に戻るが,実際はボケ順応による視力回復分だけ通常よりも高くなる.視力上昇は,ボケ順応時の画像がボケているほど大きく(実験1),ボケ順応時間が長いほど大きい(実験2).通常得られる視力は,眼球光学系のハードウェアによって決まる空間解像力の限界値ではなく,中枢によって,その限界値よりもいくらか低く設定されていることが示された. 2大きさ感による空間解像力制御 視票の網膜像サイズを一定に保ったまま,大きさ感のみを変えて,視力に現れる影響を測定した.実験では,左右眼独立に刺激画像を呈示した.その際,呈示位置を左右の刺激で対称に平行移動することで,輻輳角を操作した.ディスプレイから被験者までの距離は一定であるため,網膜像の大きさは変わらない.しかし,輻輳角が大きいときは近くの対象物を観察する状況に相当し,知覚距離は近く,大きさ感は小さくなる.輻輳角が小さいときはその逆に大きさ感は大きくなる.ランドルトCを用いて視力を求めた.輻較角を大きくすると,視票の網膜像の大きさは変わらないにもかかわらず,視力は低下した.逆に,輻輳角を小さくすると,視力は上昇した.しかし,ある一定値以下の輻輳角ではそれ以上視力は上昇せず一定の値に収束した.視力は眼球光学系と網膜神経系のハードウェアによって決まるだけでなく,中枢によってもコントロールされる.その空間解像度の制御には,知覚される大きさ(大きさ感)が用いられることが示された.
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