研究概要 |
本研究では,酸素雰囲気中でアークプラズマ蒸着(以下AP蒸着と略す)という手法を用いてチタンまたはタングステンの酸化物を基板上に成膜し,その特性を評価した.ここでは本研究で用いたAP蒸着によってどのような酸化タングステン膜ができるかを調査した結果を中心に述べる. 1.酸化チタンの水接触角特性を測定した結果,蒸着中の酸素濃度の低い条件で成膜した方が接触角が小さくなることがわかった.これは,酸素濃度が低い方が酸素欠損が多くなることにより,紫外線成分の少ない室内光下でも親水化が生じているためと考えられる. 2.酸化タングステンの場合には,水接触角は成膜中の酸素濃度にほとんど依存しないことが判明した.酸化タングステンの場合には,成膜直後から水接触角が小さいことから,可視光応答型親水化が起きている可能性がある. 3.酸化タングステン膜をX線回折により解析した結果,AP蒸着によって形成される酸化タングステンはタングステン酸化物の中で最も光触媒活性が強いといわれている三酸化タングステン膜であることがわかった. 4.熱処理した酸化タングステン膜の吸光度スペクトルを測定してそのエネルギー・バンドギャップを見積もった.バンドギャップの処理温度依存性は小さく,2.6〜2.9eVであった。これらの値は,三酸化タングステンのエネルギー・バンドギャップとして報告されている2.6〜2.8eVと一致するものである.この結果もAP蒸着によって三酸化タングステンが形成できていることを示すものである. 以上のように,AP蒸着によって可視光領域でも光触媒反応をする可能性の高い三酸化タングステン膜を形成できることを示した.
|