研究概要 |
これまで半導体ガスセンサの過渡応答が,ガスの種類によって異なり,それを利用したガスの識別が可能なことを示してきた。ここでは種々の臭いに対するガスセンサの応答の違いを調べるために,計算機上でガスセンサの構成材料であるSnO2クラスターを作成し,クラスター表面と種々の臭い分子との相互作用のシミュレーションを分子軌道計算により行った。その結果,臭い分子の種類によってSnO2表面での臭い分子の吸着位置が異なることが明らかになり,それによる反応過程の違いが示唆された。 この違いがガスセンサの過渡応答に与える影響を明らかにするために,ガスセンサの過渡応答を,(1)熱伝導過程,(2)表面反応課程,(3)拡散過程の3つの過程に分けてモデル化を行い,ガスセンサの過渡応答モデルを構築した。構築したモデルを用いて,半導体ガスセンサのヒーターに方形波電流を印加した際のガスセンサの過渡応答を求めたところ,エタノールガスに対するガスセンサの過渡応答に極めて近い応答を得た。このことから,構築したモデルは,実際のガスセンサの過渡応答発生過程をよく表しているものと考える。 実際のセンサは,ガスの種類によって異なった過渡応答を示すことが知られている。このモデルを用いることで,この過渡応答の違いがガスのどのような性質で生じるのか,またガスセンサのどの過程で生じるのかを確認することが可能となる。またこのモデルは,方形波以外の種々の波形の電流をヒーターに入力することで,ガスセンサの過渡応答を予測する事ができ,過渡応答波形からガスの種類を識別する「ガス識別センサ」の実現に向けての有力なツールになる。
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