研究概要 |
下限界応力拡大係数範囲ΔK_<th>(=K_<th,max>-K_<th,min>)についてはここ数年間に新展開があり,従来ΔK_<th>の影響因子と考えられていた「き裂閉口」「環境」が考えにくい状況下,K_<th,max>増によるΔK_<th>の漸減現象が特定の材料に対し報告されている.本研究では,K_<max>一定ΔK_<th>試験を実施することにより「き裂閉口」がない状態を,10^<-6>torr以下の高真空にて試験を行うことにより「環境」の影響を排除した状態を実現し,この下でK_<th,max>増によるΔK_<th>の漸減現象の発生有無を実験的に検証することにした. 具体的には,大気中にてK_<th,max>増によるΔK_<th>の漸減現象が確認されているS55C材に対し,10^<-6>torr以下の高真空にてK_<max>一定ΔK_<th>試験を実施したところ,K_<th,max>増によるΔK_<th>の漸減現象が高真空下で発生しないことが確認できた.この結果と対応するが,破面観察を行ったところ,K_<th,max>増によるΔK_<th>の漸減現象の原因と考えられている,結晶粒サイズ大のへき開現象の痕跡を下限界近傍で見出すことができなかった. 一方,大気中にてK_<max>一定として保持するSLC(Sustained Loading Cracking)試験を行ったところ,き裂進展は観察されなかった.また,S55C材のシャルピ試験結果より,S55C材は常温にて延性-脆性遷移温度域にあることも確認されている. 以上より,K_<th,max>増によるΔK_<th>の漸減現象は高真空下で排除されうる,材料の脆性に起因していると結論づけられた.
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