研究概要 |
本研究課題は,薄膜化による応答速度向上が検討され,マイクロマシン用として期待が高まっているTiNi形状記憶合金(SMA)薄膜マイクロアクチュエータの実用化を促進するために,薄膜化に伴って特に問題となることが予想される,水素環境下におけるTiNi合金の遅れ破壊の寿命,および形状回復機能の劣化寿命を明らかにし,その寿命評価法を検討することを目的としたものである. 積層圧延法,およびスパッタリング法で作製した二種類のTiNi薄膜マイクロアクチュエータ(厚さ4〜16μm)に対して水素チャージを行い,構築した微小材料試験システムを用いてSSRT法による遅れ破壊試験を実施した.二種類の薄膜マイクロアクチュエータいずれにおいても,水素チャージ時間が長くなるとともに強度が低下した.同じ水素チャージ時間で比べた場合,より薄いマイクロアクチュエータのほうが強度低下が著しかった.この挙動は,水素チャージ時間とともに増加する拡散水素量に対応していた.AFM観察の結果,遅れ破壊では表面に発生した脆性的な微小き裂が急速に進展することで破壊に至ると考えられた.同じ薄膜マイクロアクチュエータに対して,水素チャージ環境下での繰返し形状回復試験を実施した.膜厚が小さくなるにつれて回復応力と回復ひずみ率の低下が著しくなった.また,水素チャージ環境下での疲労試験で得られたS-N曲線は,繰返し速度が低い場合ほど短寿命側にシフトし,かつ,より薄いマイクロアクチュエータのほうが短寿命であった.破断時間と最大応力の関係は繰返し速度に依存せず,完全に時間依存型の水素環境劣化破壊であることがわかった.さらに,微小TiNi合金アクチュエータの関連技術として,TiNi細線を利用した高出力のアクチュエータの開発を試み,細線を強化材とする薄板型の複合材料アクチュエータを作製・評価した.
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