研究概要 |
ヒト皮膚線維芽細胞をコラーゲンゲルに包埋したヒト真皮層3次元モデル(厚さ約0.3mm)について,栄養状態(Dulbecco's modified eagle mediumとHam's F-12の混合培地による高栄養状態とDulbecco's phosphate-buffered salineによる栄養欠乏状態の2種類)と温度(37℃と25-27℃の2種類)の調節を行って,6時間まで静置培養し,光学顕微鏡による観察を行うとともに,Calcein AMによる細胞染色後,ゲル表面から深さ数十ミクロンまでの共焦点走査型レーザ顕微鏡像による細胞形態の観察を行った.その結果,ゲル表面近くの細胞は温度37℃の栄養欠乏環境では球状化が進行し,伸展性が著しく低下した.一方,温度を10℃程度低下させた場合と高栄養状態の場合では変化が見られなかった.10℃程度の温度低下による細胞損傷率の低下は従来の研究の結果を支持するものであり,局所的温度調節による褥瘡遅延を実現する上で有用と考える. ウサギ由来細胞様細胞株を包埋したゲル,および,ヒト皮膚線維芽細胞をコラーゲンゲルに包埋したヒト真皮層3次元モデルについて,ゲル表面の圧縮による細胞死あるいは細胞の形態変化を調べたところ,明瞭な効果は見られなかった.この理由として水分含有率の高いゲルの圧縮量が細胞にそのまま伝わるわけではないことが考えられる.また,酸素濃度を3-5%に低下させた.場合にも,明瞭な変化は見出されなかった.細胞内ストレスファイバーは細胞が伸展した状態では発達した構造が見られたが,細胞がゲルからはがれて球状化すると観察されなくなった. 超弾性体の細胞包埋ゲルの有限要素モデルを作成して,ゲル表面の圧縮による有限要素解析を実施した.この圧縮方向のひずみ成分の分布結果の分析から,ゲルと細胞が直列に存在すれば,細胞はゲルに比べて軟らかいため,細胞にひずみが集中すると理解された.また,細胞とゲルの間にせん断応力が生じるため,細胞内部だけでなく細胞表面の力学的状態が細胞損傷に何らかの影響を与えている可能性がある.
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