研究概要 |
本研究では疾病や事故等で腰部以下の機能を失った障害者に装着して上体の姿勢を保持または運動を補助し,健常者と同等な上肢作業を可能とする上体動作支援装置を,ワイヤ駆動型パラレルメカニズムを用いて開発した. ワイヤ駆動型パラレルメカニズムは,必要とする自由度に加え,すべてのワイヤを常に引張状態に保つための駆動力を要する.従って入出力関係は冗長な力学問題となるため,多方向への出力に対して必要な最小の張力を決定することは容易でない.そこで,本研究ではワイヤ駆動型パラレルメカニズムの駆動力を外力に抗する成分と,ワイヤどうしが引張しあうために必要な内力成分とに分け,外力成分に関しては固有値解析を利用して任意方向負荷に対する最小力を求め,内力成分に関しては外力成分の解析で得られた結果より力学関係式から推定する方法を提案した.提案する方法と実際の解析結果とを比較したところ,推定値は解析値の1.3倍以下となり,また,計算時間は大幅に短縮され,その有用性が確認された.以上で提案されたワイヤ張力推定方法を用いて成人男子を対象とし上体動作を補助するために必要な張力を求め,上肢動作支援装置用3自由度空間ワイヤ駆動型パラレルメカニズムの寸法を決定し,同結果を基に動作支援装置を実際に設計・製作して,その動作を確認した.また,動作の支援効果を確認するために,張力の変化を検出するロードセルを製作して各ワイヤに装着し,装着者の姿勢変化の画像記録とワイヤ張力変化の測定が同時に行える計測系を構築した.以上の装置および計測系を用いて,成人男子を被験者として上体動作支援実験を行い,装置の動作確認とともに,身体の姿勢変化およびワイヤ張力の変化を測定して解析した.その結果,装着者の上体の前後屈,側屈,旋回に関して想定通りの動作補助が行え,また,身体に対して度な負荷が動作支援時に作用しないことを,画像記録,ワイヤ張力の測定結果などから確認した.
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