研究概要 |
延展性の高いアルミ合金切削におけるエステル油剤のすくい面での挙動を独自に開発した新生面摩擦試験機を用いて詳細に調べた.機械的にはスクイーズ作用により表面粗さ程度の厚み以上の油剤は切削に寄与しない可能性が示された.また,油剤の潤滑作用は工具表面温度に大きく影響を受ける.これは油剤の吸着特性における転移温度の存在とよく対応しており,水ミストによる冷却がMQLで効果的であることを示唆している.この転移温度による潤滑性発現の有無から,工具表面温度が高いステンレス鋼の切削では,エステル油剤の潤滑性は発現しないことが予想された.そこで,ステンレス鋼SUS303の断続旋削により微量油加工の効果を工具-被削材熱伝対法で工具刃先温度をモニターしながら調べた.水ミストの付与により工具刃先温度は低下するが,実用切削速度域ではエステル転移温度以下とはならないため,摩擦低下の形で効果は発現しなかった.このことからステンレス等,工具温度が上昇しやすい切削における微量油潤滑は吸着膜潤滑によらない潤滑メカニズムが必要であることが示された.また,硫黄系極圧添加剤を1wt%程度添加した油剤を微量供給した場合,水ミストとの併用により大きな潤滑効果が得られることが分かった.同じ油剤をフラッド供給しても大きな効果が得られなかったことと併せて考えると,高温場で水によるステンレス最表面の酸化が促進され硫化鉄の生成による摩擦低減効果が発現したと考えられる。これらの知見は難削化が進む部品加工の現場における潤滑設計の指針となるものと考えられる.
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