研究概要 |
宇宙機器用転がり軸受の潤滑剤としては固体潤滑剤,潤滑油,グリースが使用されているが,近年宇宙機器の長寿命化,運転条件の過酷化に伴い,潤滑油やグリースの使用傾向が増加している.宇宙用の潤滑油・グリース基油として最も広く用いられているのはフッ素化ポリエーテル(PFPE)815Zであるが,PFPE815Zの欠点を補うべくシクロペンタン(MAC)系の潤滑油・グリース基油が開発され使用に共されている.得られた結果は以下の通りである. 1)宇宙用PFPE基油815Zとグリース601EFの転がり軸受寿命試験を行った結果,グリースに比べ基油が著しく短寿命となったが,その原因として基油の永久粘度低下に伴うHFガスの発生によることを明らかにした. 2)宇宙用MAC系基油2001AとグリースR2000の転がり軸受寿命試験結果をPFPE基油815Zとグリース601EFの試験結果と比較検討した.その結果MAC系基油2001AとグリースR2000の軸受寿命はパラフィン系基油・グリースの軸受寿命の2倍に,PFPE基油グリース601EFでは5倍以上になることが分かった. 3)基油815ZのEHL条件下での一時的粘度低下は液体領域で,永久粘度低下は粘弾性固体領域,弾塑性固体領域で生じること,また,永久粘度低下は油分子の切断に伴うHFの発生をもたらし,軸受寿命を著しく低下させることを明らかにした.さらに,増稠剤(PTFE)は油分子切断防止作用があること,また,MoS2は軸受寿命を著しく低下させることがわかった. 4)基油815Zの4球摩耗試験において,弾塑性固体領域において著しい摩耗痕径の増大が認められた.したがって,815Zの粘度低下がEHL領域のみならず境界潤滑領域においても生じることを明らかにした. 5)基油815ZはEHL条件下では液体領域で使用すべきである.
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