研究概要 |
傾斜平板上の液滴が転落を開始する臨界角度について,実験結果を精度よく予測する理論モデルは未だ構築されていない.固液のぬれ挙動に基づき,液滴に作用する重力と表面張力の釣り合いの条件から,転落角度を理論的に算出する方法について考察した.液滴の転落は,液滴付着面の最大幅と,前進接触角と後退接触角の差である接触角履歴に依存することを明らかにした.数種類の供試液体および試料平板に対する転落角度の実験値は,理論値と非常によい一致を示した.また,傾斜平板上の3次元的な液滴形状を近似的な理論から求める手法を提案した.理論的に求めた液滴形状は,実際の形状とよく一致した. 転落角度に対する上述の結果を利用して,自己組織化単分子膜(SAMs)の欠陥を簡便に検出する手法について検討を行った.浸漬法により,シリコンウェハー基板上にSAMsを施した試料板を作成した.まず,BCAおよびエチレングリコールに対する前進および後退接触角θ_A,θ_Rの測定を行った.表面にnmスケールの欠陥をもつ膜と一様な標準膜において,接触角履歴(θ_A-θ_R)には,1〜2°程度の差が現れることを示した.この結果は,表面に分子レベルの欠陥がある場合,巨視的なぬれ性に変化が現れることを示している.ついで,1μ1の液滴を対象に,SAMs試料板上での転落角度の測定を行った.1〜2°の接触角履歴の差に対し,転落角度には6°以上の変化が現れ,接触角の測定よりも感度よく欠陥膜が判別できることを示した.
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