研究概要 |
本課題では,凍結組織の細胞密度上昇に伴う配向と接触状態の違いが解凍後の生存率に与える影響を調べることを目的とし,(1)生体組織を模した非配向単層培養細胞の凍結保存後の蛍光画像の生死分布状態を調べ,(2)単層細胞の配向制御を確立し凍結方向を変えて試料を凍結させ生存率を求め,(3)懸濁細胞の緩速凍結時の密集に伴う接触と生存率の関係を調べ,(4)急速冷却された人工組織の熱物性値による細胞内の凍結保存状態の評価を行なった.全ての実験にヒト皮膚繊維芽細胞を用いた.(1)と(2)では,溝加工カバースリップ上で2日間単層培養(0.2〜5×10^5cells/cm^2)したものを配向制御試料(傾斜で凍結方向を可変),培養皿上で培養したものを非配向試料とした.試料を4〜-80℃,0.1〜10℃/minで凍結させ-185℃以下で保持後解凍し,Calcein-AMとDAPIの蛍光2重染色画像から細胞の2次元生死分布と生存率を調べた.(3)では,上と同冷却条件で懸濁細胞(10^6cells/cm^3)を高分子物質で制動隔離(有無)し凍結し,解凍後に生存率を求めた.(4)では,コラーゲンスポンジ(φ20×1mm)中で細胞を2日間培養(10^6,10^7cells/cm^3)した試料を30〜700℃/minで凍結した場合の細胞内の有効温度伝導率を推定し解凍後生存率と比べた,その結果,(1)より,凍結保存後の非配向細胞に死細胞の局所集中が見られた.(2)より,単層細胞の配向制御を確立し,配向よりも凍結方向の違いの方が凍結保存後の生存率に影響を与えることが分かった.(3)より,緩速凍結中の細胞の密集に伴う接触による生存率低下が明らかとなった.(4)より,人工組織の急速凍結では細胞内凍結による生存率低下に細胞密度は関与しないことが示唆された.以上より生体組織の緩速冷却による凍結保存において細胞同士の接触機会の増加が解凍後の生存率低下につながることが示唆された.
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