研究概要 |
従来の安全システムは,ロボットと人間を空間的・時間的に分離するという概念を基本としているが,今後ロボットが社会や家庭などに進出してくるに伴い,ロボットと人間を空間的・時間的に分離することは受容し難い条件となる。本研究は,ロボットを含む機械に人間の痛みを模擬した機構を実装することにより,安全・安心な機械系を実現することを目的とする。痛みには様々な分類があり生理学的にも異なるメカニズムとなることから,本研究では物理変形を伴う機械刺激により生ずる痛みを扱うこととし,痛みの発生・伝達に関する工学的なモデルを構築するとともに人間-機械系の安全制御への応用を試みた。 まず,衝突時のインパルス刺激と主観的な痛みをそれぞれ入出力信号とみなし,痛みの生成とその持続を表現するブラックボックスモデルを得た。また,ゲートコントロール説に基づき痛みと触信号を切り替える機構をニューラルネットワークを用いて構成した。さらに,提案する痛みモデルを2リンクアームロボットの痛み回避に応用し有効性を検証した。このモデルは衝突部位の機械的な特性を考慮していないため,様々な部位で痛みを模擬する際には,部位ごとにパラメータ調整が必要となりロボットへの実装が困難となる。そこで,次に皮膚の機構構造に注目した新たな痛み発生モデルを提案した。皮膚のモデル化においては,機械刺激を印加した際の皮膚各層の変形量を超音波エコー装置にて計測し,有限要素法(FEM)解析により超弾性パラメータを推定した。シミュレーションの結果,脂肪層と筋肉層の境界に歪みエネルギー密度(SED)が集中し二次痛が発生することを示した。痛みは発痛物質の産生により生じるため,皮膚内のSEDを入力とし発痛物質の産生と消滅を伝達関数で近似したモデルにより痛みの動特性を表現した。最後に,皮膚の積層構造の特徴を模擬した新たな痛みセンサユニットを開発し、有効性を検証した。
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