研究概要 |
本研究の目的は人体を伝送路の一部とする通信方式(人体通信)の伝送モデルを解明し,実用的な送受信機の回路設計に関する指針を示し,応用システムを試作することである. 伝送モデルの解明に関しては,腕時計型の送信機を手首に装着した人体を想定し,胴体や頭部がインピーダンス特性に及ぼす影響を検討した結果,胴体および頭部の影響は小さく,送信機電極のインピーダンス特性は腕部のみのモデルにより検討が可能であることを明らかにした. 次に,腕部モデルを用いた電磁界解析と実験により送信機の電極の入力インピーダンス特性を解析した.送信機の入力インピーダンスは送信機の電極間隔に比例し,電極長および電極幅に反比例し,回路基板幅や回路基板長の影響をほとんど受けないこと,および回路基板と電極との間隔はリアクタンス成分のみに影響を及ぼし,その変化はほぼ比例であることを示し,これらの知見を回路設計の指針としてまとめた.これら数値解析の結果に対して多変量解析による非線形重回帰分析を行い,電極形状と配置に対するインピーダンス特性の近似式を求めた.この近似式を用いた具体的な設計事例として腕時計サイズの送信機の裏蓋に実装する50ohm系の電極設計を行った結果,設計解として電極サイズ11.2×30mm,電極間距離7.6mm,基板サイズ30×30mm,電極-基板間距離10mmを得た.これは腕時計サイズの情報機器の裏蓋に実装可能な寸法である.インピーダンス整合を行った電極を用いると送信機周囲および腕部周囲により強い電界強度分布が得られ,送受信機間の伝送特性は2〜12dB改善した.送信機電極のインピーダンス整合の改善により,人体を伝送路として用いる通信においても通信特性の向上に効果があることも確認し,本研究で開発した電極形状によるインピーダンスマッチングの有効性を示した.
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