研究概要 |
インフラストラクチュアーの建設プロジェクトは大規模かつ複雑であるために、極めて多様なリスクをともなう。そのため、建設契約には、将来に起こりうる全ての事象を記述することが不可能となる。すなわち、建設契約は典型的な不完備契約であり、事後的な契約変更や紛争の発生は不可避である。そのため、建設契約の不完備性に対処するために、効率的に契約変更および紛争を解決するためのルールを設計する必要性がある。本研究では、組織としての意思決定要因である取引の長期的関係が紛争解決プロセスに与える影響について分析した.平成18年度では、大本・小林・大西(2001)による個人間での和解交渉プロセスのRubinstein型交渉ゲームモデルを基礎として,組織としての継続性を重視する意思決定原理によって紛争解決過程がどのような影響を受けるかを分析した。その結果,長期的関係を重視する企業の紛争は抑制されることが明らかになった.さらに,わが国における大手建設企業へのアンケート調査を実施した結果から,売上規模及び長期的関係をどれだけ企業が重視しているかに応じて紛争解決過程が影響を受けることを指摘した.このような組織的意思決定構造及び近年の建設市場における長期的関係性が必ずしも成立しない環境では,いったん紛争に至ってしまうと紛争に係るコストや時間がかかってしまうことから、クレームや紛争に発展する前に、予防することが重要であることを指摘した。海外工事での契約約款であるFIDICでは、中立公正な第三者の立場として、エンジニアに代わり紛争の判断を行うDAB(Dispute Adjudication Board)といった代替的な紛争解決手段によって,問題点を早期に抽出することによって、紛争を予防することが可能であることを指摘した.
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