研究概要 |
代表者らは家畜排泄物のメタン発酵消化液(以下,液肥)を農地投与することで,農業生産の推進と廃水処理費削減の両立を図るプロジェクトの一環として、特に1つに家畜糞尿由来のステロイドホルモンであるエストロゲンが水田および周辺環境において影響を及ぼさないかを解明するとともに、影響があるとすれば液肥の投与法によりそれを回避する方策を検討してきた.未処理の家畜糞尿中エストロゲンの農地投与に伴う分解性についての研究は過去にも行われてきたが,その見解は様々であり定説がない。また,乾燥した農地ではなく,水田土壌に投与した液肥中エストロゲンの分解性に関する報告はまだなく,本研究では特に液肥中エストロゲンの水田環境における分解性を検討した。液肥中ではエストロゲンの分解率が判ったが,その理由を明らかにするために行った分子量分画試験では液肥中エストロゲンの溶存有機物との結合の可能性を小さく、有機物にエストロゲンが結合もしくは分配して難分解性になる可能性は低いことがわかった。そこで,植種方法を変えた液肥中エストロゲンの生分解性確認試験を行った。その結果,液肥中の自生微生物やBODseed中の微生物は液肥中エストロゲンをほとんど分解しないが,液肥投与田由来の微生物は液肥中エストロゲンの高い分解能を有していることが明らかになった。これらのことから,液肥の水田投与に伴い,水田土壌中へ投与されたエストロゲンは微生物により大部分が迅速に分解され,環境へ流出し汚染をもたらす可能性は低いと考えられた。また、並行して液肥中のエストロゲンが作物生育に影響を及ぼす可能性についても調査を行った。
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