研究概要 |
科学技術の発展に伴って,人類はこれまで様々な化学物質を開発し環境中に放出してきた。水環境中に放出された不特定多数で微量の化学物質は,水域に生息する生物に対して長期にわたって潜在的な環境汚染を引き起こすことが危惧される。従って,種々の化学物質を含む排水が流入してきた場合に,水域における生態系に対してどのような影響を与えるか,また水生生物へ毒性を示す原因物質としてはどのようなものがあるかということを明らかにすることは重要である。 本研究では,水域に放出される化学物質について,生態毒性データの集積を行うとともに,固相抽出カートリッジを組み合わせた生態毒性試験系を構築し,河川水や下水処理水といった実際の環境サンプルを対象として生態毒性レベルの評価を行った。また,HPLC(高速液体クロマトグラフ)とバイオアッセイを組み合わせた手法によりその原因物質の同定を試みた。 水環境中に放出される化学物質のうち,近年特に問題視されている医薬品類を対象として生態毒性試験を行った結果,医薬品類のなかでも抗菌剤の水生生物に対する毒性は,解熱鎮痛剤など他の医薬品類の毒性よりも強い傾向が見られた。固相抽出カートリッジを組み合わせた生態毒性試験系を構築して琵琶湖・淀川水系を対象に生態毒性レベルの評価を行った結果,下水処理水とその放流先地点で毒性が高いことが分かり,また一部の支川においても毒性の高い地点が見られた。また,淀川水系から採取したサンプルについて生態毒性原因物質の同定を試みた結果,HPLCを用いたフラクション分画とバイオアッセイを組み合わせることによって,生態毒性原因物質の分離を行うことが可能であることが確認されるとともに,分子量が600程度の物質が生態毒性原因物質の1つであることが示唆された。
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