研究概要 |
本研究は日本の都市空間における特徴のひとつである建物間の空隙(隙間)に焦点を当て,空隙の定量化手法を提案し,市街地における空隙の量と分布様態の特性を明らかにすることを目的としている。 建物間の空隙は,建物配置図において、2次元の場合は半径rの「円」が、また3次元の場合は半径rの「球」が"掃過できない領域"として定義する。円または球の直径が空隙の幅に相当する。空隙の領域を抽出する方法として,建物配置図をメッシュ化(50cm角)し,画像処理技法における図形の収縮(erosion)と拡大(dilation)という操作を援用する。これはモルフォロジーにおけるclosingと呼ばれる操作に相当し,処理の結果、空隙部分が抽出・計量可能となる。この方法を平面の場合「円掃過法」、立体の場合「球掃過法」と名づける。 最初に、京都市全域の建物配置図を対象とし、円が掃過できない狭小な空隙を抽出した。平面的な空隙率(グロスの面積比)は,空隙の幅1.5mの場合は0.4%,幅2.5mでは1.2%,幅3.5mでは2.2%と計量された。また、空隙率と建物の密度指標(棟数密度・周長率・建蔽率)の値には相関がみられた。 次に、立体的な場合に展開し、京都市の中心市街地から東西約850m,南北約760mの矩形に近い地域を選定し,空隙の利用状況に関する現地調査を行うとともに、3次元建物データベースを構築した。球掃過法の適用結果、球の直径が1.5,2.0,2.5mの3つの場合についてみると,空隙の体積率(建物全体の体積に対する空隙の体積の割合)は,それぞれ1.5,4.1,7.0%という結果が得られた。対象領域の建蔽率が55.4%であるから,仮に空隙の全量を建物上にかさ上げしたとすると,その高さはそれぞれ0.4,1.2,2.0mになり,空隙の体積は市街地形成上決して無視し得ない量となっていることが明らかになった。
|