研究概要 |
カーボンナノチューブ(CNT)を添加した高分子複合材料の力学的性質に関して近年多数の研究報告がなされているが,CNTの添加効果は系に依存して大きく異なり,必ずしも力学的性質の向上が得られるとは限らない。これは,高分子とCNTの相互作用が高分子の種類やCNT表面の状態に依存することの他に,CNTの凝集体が破壊の起点となることや,試験片形状の影響などが考えられる。本研究では,CNT,気相成長炭素繊維,カーボンブラック(CB)などを添加した高分子複合材料の変形・破壊過程におけるシンクロトロン放射光小角X線散乱時分割測定を行って,破壊の前駆構造であるクレーズの生成・成長・クラックへの転化挙動を解明し,CNTの有する高強度・高アスペクト比・ナノサイズがもたらす本質的な効果を明らかにした。CNT及びCBを添加すると高分子の破壊靭性はいずれも増加したが,CNTはCBに比べてより大きな添加効果を示した。CBはクレーズが生成するサイトの数を増加させる効果があるが,CNTの場合には,CNT固有の性質及び形状に起因してクレーズが成長するために必要な仕事を増加させる効果があることが明らかとなった。表面ノッチを導入したフィルムは側面ノッチを導入したフィルムと比較して著しく大きなCNT添加効果を示した。Essential work of fracture法及び有限要素法を用いて解析した結果,表面ノッチを導入したフィルムは側面ノッチを導入したフィルムと比較して塑性変形領域の割合が著しく大きく,これに起因して両試験片形状間でCNT添加効果に顕著な相違が生じることが明らかになった。以上を総括すると,本研究では,CNT固有の性質及び形状に起因して発現する本質的な添加効果を明らかにし,その効果が有効に発現する材料形状を見出した。
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