研究概要 |
TiNi合金には,形状記憶効果と超弾性特性の二つの特性を有しており,これら特性はセンサー機能及びアクチュエーター機能として活用できるので,TiNi合金はまさにインテリジェント材料の典型といえる.本合金のセンサー機能とアクチュエーター機能は合金の組成や格子欠陥量の微妙な変化に大きく影響が,MEMS等のマイクロアクチュエータ素材として期待されるTiNi薄膜でこれらを再現性よく制御することが困難である.そこで18年度は,TiNi合金バルクに種々の条件でNiあるいはCuイオンを注入し,その改質効果を透過電子顕微鏡及びX線回折装置を使って結晶学的に考察した.これと並行して,既設の多元素同時スパッタリング装置にイオン注入システムを組込み,同一チャンバー内で成膜とイオン注入が同時にあるいは交互に実現できるように改造し,成膜条件などの基本データを得た.19年度は,18年度の結果に基づいた成膜実験と得られた膜の特性評価を行った.その結果,得られた膜の組成を目標値に対して±0.1at%程度に制御することができ,かつ,厚さ方向の組成を連続的に変えた傾斜組成膜を得る技術も獲得できた.また,負のパルス高電圧を基板に印加することによって基板温度が400℃であっても結晶化した薄膜を得ることができた.種々の報告では,スパッタリング法で得た非晶質のTiNi薄膜の結晶化温度は500℃程度といわれているので,本研究によって負のパルス高電圧の基板への印加がTiNi膜の結晶化温度の低減に著しい効果があることが明確になった.X線回折法で得た極図形を用いて配向性を評価したところ,バイアス印加の有無によって配向性を制御できる可能性も示すことができた.また,負のパルス高電圧の印加によって,膜中には格子欠陥が導入されているはずであるが,X線回折プロファイルにはそれを定量的に示す痕跡は認められなかった.
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