研究概要 |
これまで亜社会性昆虫で親子間のコミュニケーションの存在を明らかにした研究はほんの数例に過ぎない. 特にカメムシでは皆無である. そのような状況で本研究が開始された. 本研究はまずベニツチカメムシの雌親が子に給餌を行うとき特異的な振動音(給餌音)を発することを明らかにした. そして記録した振動音からその音響学的特性を特定した. また, 子の応答を調べるための音の再生実験によって, この給餌音に子が反応して, 運ばれた餌(ボロボロノキの実)に早く集まる効果が存在することを証明した. 親が子を給餌音で呼び, 餌を与えることを明らかにした亜社会性昆虫の研究はこれまでなく, この分野での大きな1歩となる成果である. さらに, 子から親への信号伝達については, 観察の結果, 子による物理的な接触や口吻の突き立ておよび親の体液の吸汁が重要であることが示唆された. 子が「ベギング」として親の体液を吸汁する例はこれまでに知られておらず, 非常に重要な現象の発見である. とくに親子間の「協力」や「対立」などの様々な関係を分析するこれまでの研究は, これほど強力で直接的な「ベギング」を子が行うことは想定しておらず, この分野の理論的な常識を変更させるインパクトをもつであろうと期待している.
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