研究概要 |
珪藻は、海洋、淡水中に生息する植物プランクトンで、熱帯雨林に匹敵する光合成を行う水域圏における最も重要な一次生産者である。しかし、珪藻は珪酸質の固い殻に包まれているため細胞破壊が難しく光合成の生化学的研究は皆無の状態であった。 我々は、珪藻細胞の破壊方法について検討した結果、凍結融解により簡単に破壊されることを見出し、高い酸素活性をもつチラコイド膜の調製に成功した。さらに、珪藻チラコイド膜をTriton X-100で可溶化した後、遠心分画により短時間に光化学系2複合体(PSII)を部分的に精製することに世界で初めて成功し、珪藻PSIIのポリペプチド組成や活性などの諸性質を明らかにした。特に珪藻PSIIには、紅藻タイプの4種の表在性蛋白に加え、これまでに報告のない新規の表在性蛋白が結合していることを発見した。この新規表在性蛋白をコードしている遺伝子をクローニングし、その全配列も決定した。その結果、新規表在性蛋白もチラコイド膜通過ペプチドをもち、他の表在性蛋白と同様にルーメン側で機能していると考えられる。 また、珪藻PSIIを界面活性剤で可溶化した後、Blue-Native PAGEすることにより、CP47,CP43,D1,D2などからなるPSII coreを精製することにも成功した。この珪藻PSIIには約100分子のChl aが結合しており、他の植物のPSII coreに比べ、2倍以上のアンテナサイズをもつことを見出した。 さらに、珪藻の5種の表在性蛋白もほぼ精製することができたので、再構成実験により表在性蛋白の結合様式と機能を明らかにする予定である。 水域圏における最も重要な一次生産者である珪藻の光合成の仕組みを明らかにすることは最重要課題の一つであり、本研究において光合成の生化学的研究への道が開かれた意義は大きいと考える。
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