研究概要 |
本研究はメダカを用いて,生殖腺に特異的に発現する遺伝子について,網羅的にBACトランスジェニック系統を作製し,生殖腺の形成.性分化機構を細胞間の相互作用の連鎖として描き出すことを目指して計画された.平成18年度には,転写因子sox9b,ftz-f1,pod1,性決定遺伝子dmy,ステロイド合成酵素p450cyp17,雄特異的な遺伝子としてdmrt1,雌特異的な遺伝子としてaromataseについてBACトランスジェニック系統を作製した.それぞれの系統について,ホールマウント免疫染色を行い,発現細胞の発現時期および局在を明らかにした.sox9b-EGFP系統についてホールマウント免疫蛍光染色およびin situハイブリダイゼーションにより発現細胞の詳細な解析を行い,未分化生殖腺のsox9b発現細胞が精巣および卵巣の支持細胞系列の共通の前駆細胞であることを明らかにした(Nakamura, et. Al.2007).またsox9b-EGFP系統の生殖細胞系列をDsRedによって一過的にラベルし,共焦点顕微鏡によるタイムラプス記録を行うことで,未分化生殖腺に移動してきた生殖細胞がsox9b発現細胞に取り込まれていく様子を記録することに成功した.さらに,生殖腺形成変異体zenzaiの原因遺伝子について,EGFPをレポーターとした系統,およびEGFPと原因遺伝子の融合タンパク質を発現する系統を作製し,zenzai遺伝子の発現部位および細胞内局在を明らかにした.平成19年度には,新たに,nanos2トランスジェニック系統を作成し解析を行った.また体細胞をラベルしたsox9b-EGFP系統と生殖細胞系列をラベルしたOlvas-DsRed系統を掛け合わせた2重トランスジェニック系統を用い,成魚卵巣において生殖細胞の分裂動態を共焦点顕微鏡によるタイムラプス記録を行い,卵巣における生殖細胞幹細胞の解析を行った(中村他,未発表).生殖腺形成変異体zenzaiの解析においてもsox9b-EGFP系統を用いることで生殖細胞の分裂異常における体細胞との関係を明らかにした(斉藤他,2007).以上,本研究によって魚類の生殖腺形成に関して重要な知見がもたらされた.また今後の解析おいて有用なトランスジェニック系統を多数作成したことでさらなる解析への基盤を堅固なものにしたといえよう.
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