研究概要 |
北日本の深海底に広がるキタクシノハクモヒトデ高密度ベッドの遺伝的構造を調べるために, ミトコンドリアDNAの塩基配列により, 系統地理学的な解析を行った. シトクロームc酸化酵素サブユニット1(cox1)の部分配列(1285 bp)およびシトクロームb(ctb)の全長(1141bp)を太平洋, オホーツク海, 日本海から採集した39個体について決定した. 調査海域を, 北海道~北東北沖の太平洋, 南東北沖の太平洋, 日本海, オホーツク海の4海域に分け, それぞれの地域集団として解析を行ったところ, cox1には20種類のハプロタイプが認められ, そのうち4種類のハプロタイプが2つの海域に2種類のハプロタイプが3つの海域に出現した. ctbでは26種類のハプロタイプが認められ, そのうち3種類のハプロタイプが2つの海域に出現した. cox1の塩基多様度はオホーツク海が他の3海域よりも低く, ctbでは北海道~北東北沖の太平洋が他の海域よりも高かった. ペアワイズFst値で遺伝的な類似度を比較すると, cox1では北海道~北東北沖の太平洋と日本海の間, 北海道~北東北沖の太平洋とオホーツク海の間で, ctbでは北海道~北東北沖の太平洋と他の3海域との間で有意差が認められた. これらの結果から, 海域間の遺伝的交流が多少ともあるものの, 海域による遺伝的構造の差が認められることが示唆された. キタクシノハクモヒトデの亜種とされているエゾクシノハクモヒトデは, 日本海だけでなく東北沖の太平洋にも出現することがわかった. 分布水深はやや重なり同所的に出現する場所もあり, また, 形態的な差は明瞭であるものの中間形と思われる個体も稀に見つかることから, 両種間の系統関係をさらに詳細に調べる必要があることがわかった.
|