研究概要 |
今回我々は,ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)の10種のアイソザイムの内,1型(α,γ)及びII型(δ)のアイソザイムの機能と複合体形成能を検討した. DGKαはメラノーマ細胞のアポトーシスを抑制的に制御すること,そして,その制御はNF-KBの活性化を介することを見出した.更に,DGKαとNF-κBの間にはプロテインキナーゼC(PKC)ζが介在する可能性が高いことが明らかになった. DGKγは既にRac1の抑制因子であることを報告している.今回,細胞の上皮増殖因子又は過酸化水素/ボルボールエステル刺激時に,DGKγはRac特異的GAPであるβ2-カイメリンと一過性に速やかに結合し活性化することにより,Rac1活性を抑制することが明らかになった.一方,β2-カイメリンはSrcキナーゼによりTyr-21がリン酸化され,この結果GAP活性が充進して,インテグリン依存性の細胞伸展が阻止されることを見出した. DGKδKOマウスを作成し解析したところ,DGKδがPKCの活性抑制を介しEGF受容体のシグナル伝達を正に制御することを明らかにした.更に,高濃度の細胞外グルコースにより,DGKδの活性と細胞内局在性が制御されること,また,DGKδによってPKC活性が抑制され,その結果,インスリン受容体活性が正に制御されていることが判明した.そして更に,2型糖尿病患者の骨格筋中ではDGKδのmRNA及び蛋白量が減少していることを見出した.また,DGKδのKOマウスは,骨格筋組織中のDG量の増加を伴い,脂肪褥の増加,グルコースの取り込み能の低下,インスリン抵抗性の増大など,2型糖尿病様の表現型を示し,DGKδが本症発症・増悪化の新たな鍵酵素である可能性が高いことが明らかになった.DGKδはSAMドメインを介してポリマーを形成し,そのポリマー形成が細胞内局在性を制御することも見出した.
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