研究概要 |
キサンチン酸化還元酵素(XOR)は元来NADを電子受容体とする脱水素酵素型で存在するサブユニット150kDaのホモダイマーで,非ヘム鉄,FAD,モリブドプテリン(MOP)を有する複合酵素であるが,哺乳類酵素のみが,酸素を電子受容体とする酸化酵素型に変換する.我々はその変換機構を解明した.近年,活性酸素種(ROS)の細胞内シグナル伝達の関わりが注目されているが,ROS産生系の重要な酵素系の一つがXORである.本酵素の結晶構造解析を行う中で,又変異酵素の構造と機能を研究する中で,我々は特定のシステイン残基C535/C992,C1316/C1324,のペアがジスルフィド結合を作る事で,FAD裏面に存在する特異なアミノ酸クラスターの崩壊を引き起こす.それに連動した長鎖リンカーが大きく移動するため,そのリンカーは基質NADの進入路を塞ぎ,脱水素酵素活性を消失せしめる.このFAD周囲のアミノ酸鎖の位置移動によりFAD周囲のイオン環境が大きく変化し,この事も酸化酵素型への活性変化を引き起こす.これら機構の解明から,クラスターを破壊させ,更にFADの酸化還元電位を上昇させた酸化酵素型で発現する変異酵素W335A/F336Lを昆虫細胞系で大量に発現させ,精製酵素の生化学的性質と結晶構造を明らかにした.本酵素は脱水素酵素型に変換するDTT処置を施した後でも酸化酵素型活性を示し,キサンチンから渡る電子のうちオキシラジカル産生に流れる電子の割合は75%を示し,オキシラジカル産生実験系としては良いモデルとなると考えられた.そこで19年度は,生理的条件下では各臓器で脱水素酵素型として発現している,野生型キサンチン脱水素酵素を本変異酵素に置換したトランスジェニックマウスを作成した.今後個体の寿命観察とそれぞれの臓器の病理学的,生化学的検索を行う.又本酵素の強力な新規阻害剤を投与し,その効果を見る.
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