研究概要 |
複製チェックポイントは、ゲノムDNAの複製停止時にフォーク構造を維持し、DNA損傷の修復を誘導してS期の染色体安定性を維持する重要な分子機構である。これに関わる膨大な分子群や染色体の動態が時空間的にどう制御されるのか未だ明らかでない。本研究では酵母の複製複合体因子の機能ホモログであるヒトTim,Tipin,AND-1について解析を行い以下の新しい知見を得た。 1.ヒトTim,Tipinは細胞周期を通じて安定な複合体を形成する。また、共免疫沈降法により、AND-1は染色体接着に必須なコヒーシン分子Smc1,Smc3,Rad21や複製因子Mcm7と結合し、TimはMcm2と結合することがわかった。 2.ヒトTim,Tipin,AND-1は複製部位周辺に局在する。RNA干渉により発現を抑制すると、S期進行の遅れとDNA合成の低下がみられる。 3.ヒトAND-1の発現を抑制するとDNA損傷が誘導され細胞死に至る。 4.ヒトTim,Tipin,AND-1の発現抑制により複製停止時のChk1キナーゼが不活性化され、紫外線抵抗性のDNA合成が観察される。また、ヒトTim,Tipinはチェックポイント調節因子Claspinの染色体への結合に必要である。 5.AND-1は複製停止時にATR/ATMおよびCdc7依存的にリン酸化される。 6.AND-1の発現抑制により相同組換え修復の効率が著しく低下する。 これらの知見から、複製フォークにおいてはAND-1やTim,Tipinが複合体を形成し、DNA複製、複製チェックポイントの活性化、DNAの組換え修復およびDNA損傷の抑制を協調的に制御してゲノム安定性維持に寄与すると推測される。今後、さらに分子機構を解明し、癌などDNA複製時のゲノム不安定性に起因する疾患に有効な治療法の開発などに応用したい。
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