研究概要 |
単一ゲノムに後天的クロマチン修飾を加えることで遺伝子発現を変化させる機構およびその研究分野としてのエピジェネティクスは,基礎生物学において一大領域を築きつつある.哺乳類ポリコーム群は複合体としてクロマチン修飾活性を持ち,且つ継承的遺伝子抑制を担うエピジェネティック制御の中心的因子である.故に,ポリコーム群に係る研究は生命科学の発展に極めて重要である.しかしながら,その抑制分子機構はほとんどわかっていない.本研究では, その理解のために数種ポリコーム群-GFP遺伝子ノックインマウスの作製およびその生細胞イメージングを試みた. <結果・考察>1.MEFにおいてポリコーム郡は共通の核内斑点状構造体(数百個,直径~0.5um)を形成した.この構造体(PcG body)はポリコーム群巨大複合体を反映していると考えられた.2.動的観察および免疫蛍光シグナルの3次元解析によりPcG bodyはH3K27me3領域と特異的に共局在するクロマチン結合構造体であることがわかった.3.FRAP解析により雌型TS細胞における不活性X染色体上(H3k27me3-rich)でのMel18-GFP動態は核質領域(H3k27me3-poor)に比べ3倍近く遅くなっていることがわかった.したがって,ポリコーム群はH3K27me3-rich領域上での速度低下により集積(停滞)し易くなっているのかもしれない.4.PcG bodyの役割(複合体巨大化の意義)調査において,構造学的に提唱されていたEdr2の自己重合機能に注目し,その機能破綻によってPcG body欠失細胞(Edr2-Cerulean細胞など)を作出することに成功した.PcG欠失MEFでは,ポリコーム群標的Ink4a-Arfの脱抑制が起こっており,また,そのノックインマウスはポリコーム群変異特有の背骨後方化異常を示した.この結果は,PcG bodyは抑制的機能ドメインであることと,その構築はPhc2の自己重合機能に依存していることを示すものであった.<結論>H3K27me3領域上で構築されたポリコーム群複合体はその抑制機能発揮のためにさらに過剰会合(PcG body形成)する必要がある.
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