研究概要 |
原腸陥入によって成立した内胚葉は胚の最も腹側にシート状に広がって存在しているが,やがてもっとも前方が腹側に折れ曲がり,前腸形成が始まる.その後前腸は袋状の構造となり,後ろへ伸長してゆく.前腸は膵臓より前方の内胚葉性器官をつくる重要な組織であり,前腸を作る細胞がどのように移動するのか,また,どのようなシグナルが前腸内の様々な領域を決定するのかを調べた.まず,Microarray法を用い,前方内胚葉特異的に発現する遺伝子を多数単離した.その中でもBMPシグナルを阻害する液性因子であるsizzledの詳細な発現を調べたところ,前腸前方の腹側内胚葉に限局して発現し,前腸後方の前腸門付近では発現がなかった.sizzledが前腸は位牌用の分化に関わっている可能性を調べるため,sizzledを前腸後方内胚葉に強制発現し,前腸から生じる咽頭,肺,食道・胃,肝臓のマーカー遺伝子の発現の変化を調べた.すると異所的なsizzledは肝臓マーカーの発現を抑制したが,他のマーカーには影響しなかった.このことは,sizzledがBMPシグナルを前腸の後方に限局し,肝臓を前腸後端に分化させるしくみに関わっていることを示唆している.さらに,Newcultureとelectroporationを組み合わせることで,これからの消化管領域化の分子機構解明に必要と思われる,厳密な部位特異的遺伝子導入法を確立した. また,前腸が伸長するときの細胞運動,細胞増殖を調べた.すると,前腸の背側内胚葉はほとんど移動しないが,腹側内胚葉のラベルが長く伸びた.特にステージ8以降,前腸腹側正中細胞がインターカレーション運動を起こしており,これが前腸の伸長に関わっていることが示唆された.また,前腸腹側と背側の内胚葉細胞では細胞分裂の頻度はごく低く,二つの結果を合わせると,前腸伸長の主な原動力は細胞運動であることが示唆された.
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