研究概要 |
ミカン科ミカン亜科には世界および日本で最も生産量の多い果樹であるカンキツをはじめ産業上重要な植物が属するが,それらの成立には不明な点が多い。本研究では遺伝子の担体である染色体情報を解析することにより,この点について検討した。 カンキツ類以外のミカン亜科植物19属33種の染色体数を調査したところ,ほとんどは二倍体であったが,一部四倍体も認められた。Glycosmis pentaphyllaでは二倍性と六倍性の細胞が混在していた。 グアニンおよびシトシンに特異的であるCMAを用いて染色体を分染して,そのパターンからミカン亜科植物の進化について検討した。供試植物はそれぞれ独自の染色体構成を示し,ミカン亜科植物が染色体レベルでの多様性を有し,染色体情報がこれらの進化を検討する際の極めて重要な情報であることが確認できた。染色体のCMA(+)領域は,進化に伴い増加,複雑化していることが認められた。 続いて,類縁関係,進化の解明に有効なリボゾームRNA遺伝子(rDNA)の染色体上での位置を蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)によって明らかにした。FISHに用いるプローブはダイズにおける既知情報を利用して,PCR法によって5S rDNAを増幅して用いた。原始的なものから高度に進化したものまでの7属のうち6属においては,染色体上の5S rDNA領域は2か所であった。しかし,カラタチではそれが6か所確認できた。このことから,ミカン亜科植物の5Sr DNA領域は2か所を基本とし,真正カンキツ類が各属に分化する過程でその領域の多様性が発生したものと考えられた。
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