研究概要 |
始めはがん遺伝子産物として報告されたRasタンパク質は、一般細胞の分化や増殖に関わることが分かってきた。昆虫ではショウジョウバエで近年、脱皮ホルモン活性制御への関与から、体サイズ調節にも係わっていることが示唆されたので、器官ごとに分析可能な大型なカイコを用いて遺伝子解析を行った。 哺乳動物ではH-, K-, N-Rasの三種が知られており、ショウジョウバエにおいても1,2,3の3つの遺伝子が存在する。そこで、それらの配列を元に縮重プライマを設計し、カイコcDNAライブラリからRasタンパク質をコードするcDNA断片を得、RACE法により全長をコードするcDNA3種を得た。予想されるアミノ酸配列から、カイコの1,2,3中の相同性よりも、カイコとショウジョウバエの1,2,3のそれぞれの間の相同性の方が高かった。しかし昆虫の1,2,3型と哺乳動物のN-, K-, N-間の相同性は低く、系統樹解析の結果、昆虫Rasのグループと哺乳動物のグループは別のクラスターであることが分かった。 成長におけるmRNA発現変動は全てのRasで認められ、5齢後半から蛹期で高い発現が観察された。Ras3のみ胚期初期でも高く、Ras2は蛹期後半で特に高かった。4齢後期と5齢中期の発現量を主要器官別に比較したところ、いずれも前蛹期のマルピーギ管で高い発現が見られた。 また、Rasタンパク質を蛍光タンパク質GFPと融合タンパク質として昆虫培養細胞に発現させたところ、GFPのみを発現させた場合には細胞内にほぼ全体的に存在していたのに対し、融合タンパク質では細胞膜に局在化することが分かった。さらにRasの脂質修飾を解析した結果、3種のRasはいずれもゲラニルゲラニル化されることが示唆された。
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